ABOUT NUMBERS

封筒は伝統工芸士2名を含む各専門の職人5名が手をかけ、8箇所以上の加工場を経て完成。吟味された楮と木材パルプ。手漉き和紙の伝統的技法「流し漉き」を落とし込んだ特別な機械を用いて、ゆったりした歩みで丁寧に抄紙。絶妙の塩梅で脱水し完全乾燥前のウエット状態の和紙を、職人が1枚ずつ手で揉みこみシワ加工を施す。程良く広げ乾燥機の中で平置きし、乾燥させ強制紙を制作。柔らかさ、強度、耐久性を持つ。

染色により、室町時代後期から江戸時代にかけ南蛮貿易で西欧から献上された最高級羊毛布地の毛織物羅紗(らしゃ)の色である猩々緋(しょじょうひ)に染め上げる。猩々は中国における伝説上の猿に似た動物で、体には長毛、顔はヒト、声は小児の泣声、海中に棲み、酒を愛好、人語を解す。酒を手に入れるために時折、人里に現れると言われる。古来、猩々緋は猩々の生き血で染めていると囁かれた。織田信長,豊臣秀吉,足利義昭など名のある武士が陣羽織を猩々緋に仕立て愛用し、権力や権威を象徴する最上の高級品の色とされる。

出来上がった猩々緋の和紙を専門の加工場に持ち込み、独自デザインの特殊なサイズ•形状の型で裁断。抜型を製作し、ビク抜き加工(トムソン加工)を施す。本用紙の取扱は非常に困難で纏めて裁断ができず、熟練の職人により一枚ずつ機械で制作する手差し(半自動:半分は機械、半分は人間の手作業)方式を採用。

オリジナルの型に裁断された和紙を別の専門の加工所に持ち込み、メインモチーフである世界最高価格の赤い切手「英領ギアナ1セント・マゼンタ」の精髄を和紙表面に入れ込む。「英領ギアナ1セント・マゼンタ」の不揃いな八角形を同比率で封筒表面のサイズに拡大し入れ込み、1.8ptの線を無色エンボス筋彫。また、独自の型で金属版を製作し、凸面を機械で和紙にプレスする特殊加工。一見真っ赤な紙が注視すると線が可視化される。2本の線によるミニマルな表現。「英領ギアナ1セント・マゼンタ」が刃を使用して八角形に切られている点を色をつけない無色のエンボスで表現。

同加工場にて封筒表面中央やや上部に赤メタリック箔押し加工を施す。箔押しは金箔などの箔をプレス機で熱と圧力をかけて紙に転写する特殊印刷。赤い紙にあえて赤いメタリックの箔押しを可視と不可視の中間に狙いを定めたサイズで実施。ラテン語を刻印。切手「英領ギアナ1セント・マゼンタ」にはギアナ植民地におけるラテン語のモットー"Damus Petimus Que Vicissim"(意味:与えよう、見返りを求めて)とある。「月と赤パンツ」の思想に沿ってこのラテン語のモットーを変更。歴史に知見を持ち特殊外国語の翻訳を専門にする会社へ調査・翻訳を依頼し、知見を得てモットーを制作。封筒中央に"Damus Sed Non Petimus Vicissim"と刻印されている。全て大文字でスペースを使用しないのは、紀元0年頃の最盛期のローマの表記方法に倣っている。

"Damus Sed Non Petimus Vicissim"
「与えよう、見返りを求めず」

続けて同加工場で裏面の加工。裏面は礼儀、戯れ、赤パンツを表す。封筒のフタの部分は「頭」や「ベロ」「口」と呼ばれる。フタを極めて長くしたデザインにより、深く下げる「頭」、赤く柔らく長い「ベロ」・固く閉じる「口」を意味。

そのフタの中央に艶やかな光沢を出す漆黒の正三角形を刻印。有色エンボス加工による。正三角形は長い歴史を持つ神聖な形。三角形の中で最も対称軸の本数が多く、内心、外心、垂心、重心が全て一点に集まっている唯一の三角形である。

赤い紙に黒い正三角形で封筒自体が赤パンツそのものに見えるデザイン。

このようにできた和紙に対して「Zamila」の刻印を押す。
Zamilaは時を超え、国境を超え、誰もが知り、価値が上昇する事業を創造する工場。刻印には日本の伝統「木版画」の技術を採用。木を版材に使用した凸版印刷で、職人が板木に文字を逆文字で彫り込み、その版面に特別な墨を塗って用紙をあてて摺り上げる技法。室町時代には御伽草子の印刷に用いられ、現代ではなかなか見られない歴史上の印刷技術で、その技術を受け継ぐ2人の無形文化財保持者かつ伝統工芸士の業が詰まっている。

「Zamila」の版木制作は彫師・三代目関岡扇令(無形文化財保持者)による。
板木は密度が高く堅い特徴を持つ桜の木(ヤマザクラ)を使用。浮世絵版画で使われるものと同じ板木で、細かな線を彫り出すには最適な材料である。山桜は20mを超える傘形の高木。発芽してから花を咲かせるまでに5年から10年かかる。
そのヤマザクラの板木に米から作られた糊を満遍なく塗り、「Zamila」のロゴを載せた版下を貼り付ける。小刀や鑿(のみ)、時には小槌(こづち)を用いて、板木を紙ごと彫り、削り、整えて、版木が完成する。

和紙と版木を摺師・松崎啓三郎氏の元へ持ち寄る。松崎啓三郎氏はまだ現在のような印刷機がほとんどなかった頃(1952年)から現在まで約70年に渡って摺り一本を極めてきた摺師職人。何百年も受け継がれてきた世界に誇れる技術の持ち主。2014年版画界で唯一、瑞宝単光章を受章。東京伝統木版画工芸協同組合理事などを歴任。

墨をつけた版木の上に和紙を1枚ずつ合わせ、上から馬楝(ばれん)で擦るシンプルな工程に伝統が宿る。やらせてもらったが全くできない。
墨は濃度が濃い漆黒の黒色で、松崎氏が独自で作ったものを使用。一般の墨よりも数段黒く、固形の墨を水に6ヶ月以上漬け込んで作られる。戦後、液体の墨汁が普及し、固形墨は影を潜めてきたが、固形墨を使わないと出せない黒が存在する。中国で発明され2200年の歴史を持つ墨。現在は、奈良のたった10人ほどの墨職人が日本の95%の固形墨を手がけている。製墨原料は煤(すす)と膠(にかわ)、香料。煤は不完全燃焼を起こした有機物から生じる炭素の微粒子だが、実はその実態は詳しく解明されていない。膠(にかわ)は「皮を煮る」ことから、そう呼ばれ、膠の原料は動物の骨、皮、腸、腱である。それらを煮出して発現させたコラーゲン(繊維質の高タンパク排出液)を濃縮、凝固、乾燥させて出来上がる。

馬楝(ばれん)も松崎氏の自作で、48枚の和紙を貼り合わせて漆を塗った当皮に、竹の皮を編み込んで作られている。道具をで自作する点に伝統が感じられた。

全ての和紙に刻印を押し、遂に最終工程である。
最後は出来上がった和紙を全て手で貼る作業。独自の内部構造設計書を作成し、一枚ずつ人力で貼り合わせて封筒を完成させる。この封筒の最も特殊な特徴の一つが「隠し扉」である。紙が二重になるフタの右端を閉じず、この部分からフタの中に何かを入れることができる。糊で閉じれば破らないと取り出せない封入となる。活用を願う。

以上の工程でこの封筒は完成した。

一つずつの工程に悠久の時を超えて繋がれてきたクラフトマンシップが遺憾無く発揮されている。一つの封筒にこれらの加工をすることは起こり得ない。一般的な封筒の製造価格の500倍を優に超え、制作にまつわる研究や翻訳依頼などを加味すると2000倍を超える。多くの関係者のご理解と協力を頂き構想から11ヶ月をかけて完成に至った。
下着は消耗品であるが、この封筒は異なり、時代を超えて価値が上がるものを目指した。封筒は「英領ギアナ1セント・マゼンタ」をメインのモチーフとし、NUMBERSとしてはマーク・ロスコの抽象画をモチーフにしている。
英領ギアナ1セント・マゼンタ」は現在10億円で世界最高価格の切手である。知る限り歴史上最も価値が上がったものであり、これ以上に赤く縁起のいいものはないとの想いである。1セントであったものが、150年で10億円になったように、この封筒も時代と共に価値を上げることを願っている。